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  5. Dialogue 01 共創、すべての人、インクルージョン、しあわせ

共創、すべての人、
インクルージョン、しあわせ

  • 渋澤 健
    コモンズ投信株式会社
    取締役会長
  • 青井 浩
    株式会社丸井グループ
    代表取締役社長 代表執行役員

丸井グループがめざすのは、誰も置き去りにされることなく、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会です。一部の人が豊かになっても、社会のみんなが豊かにならないと、豊かな社会とは言えないからです。このテーマについて、長期投資家でインクルージョンを重視するコモンズ投信(株)の渋澤氏と、当社グループ代表の青井が「インクルージョン」の視点が生み出す新たな可能性について語り合います。

インクルージョンによる
ビジネスとサステナビリティの両立

青井:丸井グループではサステナビリティ経営を4つの重点テーマにまとめ、国連のSDGsの考え方と連動させています。一つが「お客さまのダイバーシティ&インクルージョン」、そして社内の「ワーキング・インクルージョン」です。「インクルージョン」という点にかなりこだわっています。最初は「すべての人」と言っていたのですが、何となくぼんやりしていて。そうしたらSDGsの目標の中に誰も置き去りにしない、すべての人にという形で「インクルージョン」という視点が出てきました。この視点は、すべてのステークホルダーの利益の重なりの拡大をめざす、当社の共創経営と同じ方向でした。であれば「すべての人」ではなく「インクルージョン」と言ったほうが、当社が何をしたいのかが、うまく伝わるのではないかと考えたのです。

渋澤:私がサステナビリティ経営のためには、「インクルージョン」という考え方が必要だと最初に気づいたのは、曾祖父である渋沢栄一の著書『論語と算盤』を読んだ時です。渋沢栄一は日本の資本主義の父と呼ばれ、500社くらいの会社をつくり、600くらいの大学や病院や社会福祉施設の設立に関与したのですが、『論語と算盤』の中にある「合理的な経営」という一節の中で、「経営者一人がいかに大富豪になっても、そのために社会の多数が貧困に陥るようなことでは、その幸福は継続されない」と書いてあります。まさに「永続」というのは「サステナビリティ」のことです。実は100年くらい前から言われていたことなのだと気づいたのです。

青井:我々のビジネスで言うと、これまで若者にターゲットを絞ったビジネスで成功していたのが、2000年代に入ると環境がまったく逆転し、我々が得意としてきた若者向けのビジネスが持続不可能というか、逆にリスクになってしまったのです。でも、「マルイは若い人向け」という成功体験がアイデンティティ化してしまって、そこから変わることができなくなってしまったのです。ちょうどその頃、東京・有楽町の駅前に出店するチャンスがありましたが、有楽町は若者だけでなく大人も多い地域だったため、大人にも支持されるマルイでなければなりませんでした。このことをきっかけに、その後のマルイはお客さまの年代を若者から全年代へと拡大することにつながりました。

渋澤:御社はそういう意味では、環境が変わっていく中で会社を進化させてきているという点でも、サステナビリティにとても融合しているのではないかと感じます。

青井:お陰さまで入店客数も収益も増えたのですが、次にサイズを広げていきました。例えば靴がその典型ですが、これまでは正規分布の中心サイズのみをつくり、そこから外れた大小のサイズはつくられていませんでした。履きたくてもつくっていないので、仕方なく高いお金を払いオーダーでつくったり、ハイヒールを履きたいのにスニーカーを履いたりしていました。これはまったく豊かな社会ではないですよね。人口の減少でお客さまは減っていくと言われていますが、「インクルージョン」という視点から見ると、ある意味で「置き去りにされている人」がたくさんいるのです。そしてお客さまの「インクルージョン」に力を入れるようになり、それがビジネスの成長にもつながり、ビジネスの戦略とソーシャルの課題解決が一致していったわけです。

世の中から、矛盾や無駄を全部排除してはいけない

渋澤:機械論と生命論という考え方がありますが、機械論は効率性や合理性を常に求めて、そこで価値をつくる考え方です。思えば、私はこれまでずっと投資の世界にいて、機械論でやってきたと思っています。「効率性を高めれば、そこで企業価値をつくれます」と。しかし遊びがなくて効率性だけを追求していくと、面白いところを削ぎ落としてしまうこともあります。これに対して生命論は矛盾や無駄があり、その無駄の中に次の発見の可能性もあります。世の中のイノベーションというのは、最初は矛盾や無駄に見えていても、違う世界のことが一緒につながると、それまでは存在しなかったものが創造されることがあります。だから、世の中から矛盾とか無駄を全部排除してはいけないと思うようになったのです。そのこともコモンズ投信を立ち上げた一つの背景になっています。

青井:会社というものは、機械ではなくて人が動かしているので、生きていて有機的なものなのです。しかも、会社の人だけではなく、さまざまなステークホルダーがいて、大きなエコシステムの中で生きたり生かされたりしている。有機的な関係の中で成り立っている一つの「場」というものが会社なのだと思います。

渋澤:「か」の力と「と」の力という考え方があります。「か」の力は、0か1かという効率性を高める力で必要ですが、「か」の力は既に存在しているものを比べているだけなので、それだけでは新しいものは生まれてこないと思うのです。一方「と」の力は、矛盾もあわせてそこから新たに創り出す力なので、この力がないと進化はできないと思っています。そこから「共に創る」ということも出てくるので、「と」の力について、もっと考えるべきだと思います。

青井:「or」と「and」ということですね。矛盾は、なぜ対話が大切なのかということの本質と関わっていると思います。2人いると対立する点が出てきますが、そこで対立点や矛盾点だけに注目すると、まったく接点がないように見えます。しかし視点を変えると、交わっている部分、共有できる部分も必ずあるわけです。そこを大きくしていくことが、私たちにとっての企業価値だと理解しています。

渋澤:丸井さんの企業価値を定義するステークホルダーの5つの輪は、動くものだと思っています。それを動かす力が対話であり、それが真ん中に集まってくれば、重なる「利益」の部分が当然大きくなっていきます。そういう意味で、「か」の力は組織に任せることができるけれど、単に状況を判断するのではなく、未知において決断する「と」の力は、経営者の力そのものなのではないかと考えています。

次世代につなげるインクルージョンの必要性

青井:2017年の正月に「新成人に聞いた今年の抱負」というインタビュー番組を見て、衝撃を受けました。新成人の約7割が、将来に対する不安、特に金銭的な不安を持っていながら、どうしたらいいかがわからず、とりあえず貯金と節約をするというのです。本当は、時間を味方につける積立投資を通じて、少しずつ貯めながら増やしていくという方法もあるわけです。これは我々が伝える役目も担わないといけないと強く感じました。

渋澤:将来に備えて貯蓄するということは、賢いし、正しい答えだと思いますが、それが貯金だと普通預金の利率は年0.002%です。1万円を20年間0.002%で貯蓄しても、1万20円にしかなりません。貯金だけでは全然追いつかないのです。一方で、世界の人口は今も年3%くらいずつ増えています。ということは、経済成長のベースが年3%くらい増えるということです。2018年1月から始まる「つみたてNISA」では20年間の分配金・譲渡益が非課税になる制度ですが、年間の上限額は40万円に定められています。それでは足りないという意見もありますが、毎月3万3,333円ですから、普通の生活の中で積み立てるには十分な金額だと思います。それが20年間の年月を経ると、元本の800万円と比べてかなり増えていることが期待できます。20代で始めれば、40代になった時にはかなりの資産形成ができていると思うのです。若い人には、このことに早く気づいてほしいですね。「足るを知る」ということは大切ですが、「何が足らないのかを知る」ことも大切だと思います。丸井さんの場合、金融サービスに小売など違う視点を入れると、もっとふくらみが出てくるはずです。

青井:我々も小売ということでやってきたのですが、振り返ってみると、お客さまから「ありがとう」と言っていただいたことがとても嬉しくて、それが仕事のやりがいだったりするのです。そうすると、世の中はいろいろと変わってきて、今ならどういうサービスをどういう人たちに提供できれば喜んでいただけるのか。我々が一番できることは何だっけと、ゼロから考えていったようなところがあります。ビジネス的には今は不動産のほうにどんどん変わっていますし、小売の店舗もどちらかというとショールームとか体験やコンサルティングの場になっていって、モノの売り買い自体はEコマースに移っていきます。ただ、お客さまへの接客という意味ではリテールですが、リテールといってもモノを売るだけでなく、リテール金融も含めて非金融と金融を扱うリテールが丸井であるという定義に、今後は変わっていくと思います。

渋澤:まさに共創する「と」の力ですね。丸井さんは違う分野の力をあわせることで、新しいものが必ずできると思っています。投資は英語で「invest」と言い、「in」は「入れること」、「vest」は身に着けている「チョッキ」です。つまり投資とは、「投げる資金」ではなく、さまざまな成長や視点を呼び込んで身に付けることなのです。今まで投資を「投資」としてしか見ていなかった人たちに、誰でも普通に未来のために役立つ資産形成ができるということを伝えていきたいですね。

渋澤 健

コモンズ投信株式会社 取締役会長
渋沢栄一記念財団理事、経済同友会幹事

国際関係の財団法人から、米国でMBAを得て、金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米国大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ株式会社を設立し、2008年にコモンズ投信株式会社会長に着任。

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