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Dialogue 03データ解析を通じて「健康経営」を推進する

  • 山本 雄士氏
    丸井グループ アドバイザリーボード
    株式会社ミナケア 代表取締役
    医師
  • 小島 玲子
    健康推進部長
    丸井グループ専属産業医
    医師、医学博士

健康データ解析の第一人者である山本雄士氏との対話を通じて、
丸井グループにおける健康と業績の関係性の見える化、
「オフェンス」の健康経営に焦点を当てて議論します。

「心身ともに充実していること」が、企業の持続可能性を高める

山本:健康経営は大切なコンセプトですが、決して新しいものではありません。なぜ今、一定の盛り上がりを見せているかというと、「ニッポン一億総活躍プラン」や働き方改革など、国としていかに生産性を上げていくかという議論の中で、健康経営が1つの包括的な概念として再評価されているからだと思います。また仕組みの面でも、健康経営の成果を検証し見える化するためのデータが、ようやく整ってきました。そして企業も、短期的な利益だけを追求するのではなく、中長期的な視点に立った時に企業が健全であること、そこで働く多様な従業員が心身ともに充実していること、これが実は大切なことだと気づいたことが大きな転換です。当たり前のことを、当たり前に考えなければいけない時代になってきたという気がします。

小島:企業の健康活動というと、従業員の疾病予防の活動を指すことが一般的ですが、それだけではなく従業員が「心身ともに充実していること」が、企業の持続可能性を高めると思います。WHO(世界保健機関)も、「健康とは、病気でないとか弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、社会的にも、すべてが満たされている状態を指す」と定義しています。丸井グループの健康経営がめざしているのも、そこなのです。

山本:先日、アメリカで健康経営の話をした時に「高齢化社会におけるECサイトと健康経営」の議論になりました。外出できない高齢者がECサイトにより買物にアクセスすることができるようになるという意見と、動く必要性が減るため高齢者が衰えてしまうのではないかという意見が大きく対立しました。そういったジレンマを抱え結論は出ないのですが、それもある意味で健康経営の1つなのです。すでに超高齢社会を迎えている日本では、企業はシニア層の顧客や社会に、どのようにして健康を見据えたアプローチをしていくのか、経営のあり方を考えていく必要があります。

小島:丸井グループは「お客さまのお役に立つために進化し続ける」「人の成長=企業の成長」という経営理念のもと、お客さまのしあわせをすべてのステークホルダーと共に創る共創経営をすすめています。それにはまず、従業員自身がしあわせでイキイキしていなければ、お客さまをしあわせにすることはできません。丸井健康保険組合の「ディフェンス活動」(守り)と、健康推進部の「オフェンス活動」(攻め)が連携して健康経営をすすめています。

山本:健康経営と社内で呼ぶようになったのは最近かもしれませんが、丸井グループではおそらく従業員の皆さんも気づいていないくらい、長く健康経営と合致するような理念や取組みを続けてきたというのが、外から見ていた私の見解です。それは2011年からお付き合いのある丸井健康保険組合との取組みから始まり、経営陣あるいは小島先生と議論していても感じました。

データ解析による「健康と業績」の見える化

小島:丸井グループでは2014年から、従業員約6,000名の健康診断データを分析し、生活習慣と仕事の取組み姿勢との関連性を見ています。問診で「食事の量や内容に気をつけている」と答えた約2,800名と、気をつけていない約1,400名について、仕事の取組み姿勢に関する項目とクロス分析をおこなったところ、「困難に直面した時に前向きに取組む」「仕事でチャレンジしている」などの項目で、100点満点換算で約10点の差がありました (解析結果1)。「良い睡眠が取れているか」という観点から解析すると、仕事の取組み姿勢に約15点と、さらに大きな差が見られました (解析結果2)。3年連続で同じ結果が出ています。

山本:企業は健康診断データを持ってはいても、そのようにデータを活用するということについては、業界全体の誰も考えていなかったというのが一般的です。丸井グループの場合はレベルが高くて、ようやく思い描いていたことが形になってきたという印象です。

小島:健康のデータというと、一般にはメタボ率や喫煙率といった話が発信されますが、従業員の立場に立ってそれらの受けとめ方を考えると、「健康」と「仕事」がどう結びつくのか、実感に乏しい面があるのではないでしょうか。健康が仕事のパフォーマンスに与える影響を見える化することが必要と考えます。そこで、健康と業績の関係を解析するにあたり、健康データ解析の専門家である山本先生にアドバイザリーボードとしてご協力いただきました。解析の結果、「良い睡眠が取れている」群は、翌年の業績が統計学的に有意に高いことがわかりました。年齢や職級、性別による偏りを排除してもなお、そのような相関が出たのです。さらに、「運動の習慣が週2回以上1年以上ある」群も、翌年の業績が上がっていることが、解析で明らかになりました。

山本:睡眠や運動と個人の業績が連動するというデータが得られたことで、それが結果的に会社全体の業績に連動していく関連性が見えてきます。これは従業員にとっても会社にとっても大変重要な数値です。お客さまや投資家にとっても、なぜ健康経営を推進するのかということが、よりクリアになると考えるからです。

ここでとても大切なことは、健康経営というのは「経営」という言葉が付いているように、経営課題としての健康なのです。これまで医療支出は、やむを得ず出さなければならない面が強い「コストセンター」として捉えられていましたが、健康経営は「戦略センター」、あるいは「投資センター」として捉えることができると思います。健康診断データの変化を経年で見ていくことで、健康を害するかもしれないリスク、あるいは稼げる機会を失うという意味でのコストなど、一定の将来予測が可能になってきています。

従業員が「自ら考え、自ら行動する」仕組みの構築

小島:丸井グループでは2016年、社内の最高法規である労働協約に「健康推進」の項を新たに設け、健康経営について会社と従業員の責務を明示するなど、制度としての取組みをすすめています。一方で従業員が「自ら考え、自ら行動する」健康経営の文化を推進するために、丸井グループ全体の中期経営計画の公認プロジェクトとして「健康経営推進プロジェクト」を2016年11月に立ち上げました。プロジェクトメンバーの選抜には、主体性を尊重し、全従業員からの手挙げ制で「なぜ健康経営推進プロジェクトに参加したいのか」をテーマとした小論文をまず提出してもらいました。その結果多くの応募があり、倍率5倍以上の人気プロジェクトとなりました。新入社員から50代までの多様なメンバー51名が選抜され、毎月1回全国の店舗から集結し、丸一日かけて健康経営推進について話し合っています。さらにこのメンバーが中心となって各店舗や所属部署での活動を拡げています。

山本:本来、新規事業の立ち上げではメンバーの目線合わせや意識統一をはかるものですが、健康については一般的に、イベント的なワークショップを1回だけおこなったり、外部講師を通じての勉強会になりがちです。

小島:本プロジェクトでは時間をかけて「丸井グループがめざす健康とは何か」を皆で徹底的に議論しました。そして、健康について学びを深め、半年かけてメンバー全員が腹落ちする健康経営推進ビジョン「すべてはみんなのハッピーのために~しなやかなアタマとカラダで今よりもイキイキ~」を策定しました。現在はプロジェクトメンバーやウェルネスリーダーなどをあわせると、グループ全体で従業員の約20名に1名が、主体的に健康を推進する立場に立っています。

一方で、上司やトップ層の理解も欠かせません。トップ層自らの活力向上と、それを周囲に波及させてもらうため、2016年2月から部長職などトップ層を対象に「レジリエンスプログラム」を開始しました。プログラム内容は、2日間の合宿とその後10カ月間にわたり、4つの活力「身体(食事・運動・睡眠)」「情動」「精神性」「頭脳」の状態を高める習慣形成をめざすもので、活力度合と周囲への影響について、本人・部下・ご家族の360度評価をおこないます。未受講者と受講者で活力度合の変化値を比較すると、受講者群の方が、信念高く行動し、効果的に休息が取れるようになるなど変化が大きいという結果が出ました。部下やご家族からは、「上司の感情コントロールが良くなった」「家族で一緒に取組んでいます」といった声が寄せられています。今後も従業員とトップ層の双方からアプローチし、全員がイキイキと活力高く、健康を通じて、社会にも活力と「しあわせ」を波及できるような会社を一人ひとりの力を引き出しながら本気でつくっていきたいと思っています。

山本:そこまですると、活動に関わった従業員の言葉がリアルな肉声になり、組織全体への浸透もすすみやすいと思います。「自分たちにとっての健康経営はこれだ」と皆で話し合うというのは、すばらしいことです。

データ精度向上により「健康経営ポートフォリオ」を最適化

山本:日本を含めたグローバルなアンケート調査では、会社が従業員の健康に留意していると、従業員のやりがいや会社への忠誠心が上がり、離職率が下がるという数字が出ています。定性的な数値ではありますが、従業員の健康を大切に思っているという姿勢自体が、会社に良い結果をもたらすことは疑いようがありません。会社への忠誠心や、離職率の低さが利益の何割に貢献しているかについての正確な数字はありませんが、ごく自然な考え方として、当然その方が強い組織、強い会社になると思います。

小島:今後、健康が生産性、パフォーマンスに与える影響について、よりわかりやすく訴求力のある指標を検討し、企業活動の一環として健康経営を推進する原動力としたいと考えています。

山本:どのようなことに取組むと丸井グループにとって最適な健康経営になり、ひいては利益、事業の持続性、発展性に寄与するのかをさらに探っていくと、それが「健康経営のポートフォリオ」となり、それらがさらにロジカルなストーリーとして描けるようになるでしょうね。

山本 雄士
丸井グループ アドバイザリーボード
株式会社ミナケア 代表取締役
医師

1999年 東京大学医学部を卒業後、同付属病院、都立病院などで循環器内科などに従事。2007年 日本人医師として初めてハーバードビジネススクール修了(MBA)。日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医。科学技術振興機構フェロー、株式会社キャピタルメディカ最高医療責任者、内閣官房医療イノベーション推進室企画調査官、慶應義塾大学クリニカルリサーチセンター客員准教授などを経て、現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャーを兼任。2014年 日本起業家賞受賞。厚生労働省保健医療2035推進参与に就任。また教育活動として山本雄士ゼミを主宰。

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