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Dialogue 02フィンテックの本質はファイナンシャル・インクルージョン

  • 増島 雅和氏
    丸井グループ アドバイザリーボード
    森・濱田松本法律事務所
    パートナー
  • 青井 浩
    株式会社丸井グループ
    代表取締役社長 代表執行役員

フィンテックの第一人者である増島雅和氏との対談を通じて、
丸井グループにおけるフィンテックとファイナンシャル・インクルージョンが
拓く可能性について議論します。

ファイナンシャル・インクルージョンと共創

青井:「フィンテックの本質は、ファイナンシャル・インクルージョンである」という話を2016年の春頃に増島先生からお聞きして、強い印象を受けました。インクルージョンという視点であれば、丸井グループがやるべきことなのではないかと目を見開かされました。増島先生は、リーマンショックの影響が、このファイナンシャル・インクルージョンにつながっているとご指摘されていますよね。

増島:ビジネスは金融であってもそうでなくても、多くの人の支持を得ないと成り立たないわけです。しかし既存の金融ビジネスは複数の選択肢を与えず、消費者はあるものを利用するしかなかったわけです。それがリーマンショックの時、金融ビジネスのグリーディさが牙をむき、弱い人を切って自分たちが残ろうとする志向が表面化しました。リーマンショック後は、金融ビジネスから排除されている人たちのための金融をやろうと考える人たちが出てきて、世の中のニーズとそれを満たすリソースがぴったり合い、大きな意味でファイナンシャル・インクルージョンの流れにつながったのだと思います。

青井:リーマンショック自体は、サブプライム層が家を買える仕組みを金融工学などでつくっていったけれど、実はそれが砂の城というか、虚構のような形だったので崩れ去ってしまった。それを確固たるテクノロジーというか、技術の裏付けがあるものでつくっていくのが、フィンテックというイメージでしょうか。

増島:おっしゃる通りです。その頃はファイナンシャル・テクノロジーと呼ばれていたのですが、結局は金融工学、計算の世界でおこなっていたわけです。理論的には裏付けがありますが、実際にそれが本当なのかという裏付けはなかったのです。そこに裏付けを与えたのがデータです。データをリアルタイムに常時取っていくことで、モニタリングができるようになりました。

青井:当社は1931年の創業なのですが、月賦販売として若い人たちに分割払いで家具を買っていただく商売からスタートしました。振り返ってみると、我々がやってきたことは一種のファイナンシャル・インクルージョンだったのではないかと思っています。

増島:当時は産業が成長していた時期なので、個人や特にサラリーマンになりたての若い人たちは、お金を借りられなかったと思います。一方でモノが普及していき、欲しくても買えない人たちにどう提供していくのかを問われる中で実現したのが当時でいう月賦販売です。これは現在でいうファイナンシャル・インクルージョンの精神の体現といっていい。

青井:パナソニックの創業者 故松下幸之助さんに「水道哲学」という考え方があります。電気製品をローコストでつくりさえすれば、蛇口をひねると水が出てくるのと同じように、すべての人に電気製品が行き渡り、主婦がつらい洗濯から解放されるというものです。当時の洗濯機はいくら良いものをつくっても高価だったので、それを販売するにあたっては、月賦やクレジットが普及の役に立ったといわれていました。当社がやってきたことには、そういう役割もあったのだと励まされる気持ちになりました。

増島:例えば田舎から出てきて仕送りもあまりない人がカードで買物をする時、丸井さんの販売員に「そんなに使っちゃダメですよ」と止められることもあったわけです。本当の意味でお客さんのことをちゃんと見ているのです。単なる資金回収ではなく、若い人に対して長期のつながりを持つビジネスをやってこられたのが良かったのだと思います。

青井:そこは本当に当社の財産だと思っています。私が一番好きな創業者の言葉に「信用というのは我々がお客さまに与えるものではなく、お客さまと一緒につくっていくものだ」というものがあるのですが、初めて知った時には感動しました。こういった「共に創る」という発想の金融業は、マイクロファイナンスなどを除くと、日本だけでなく世界でもほとんどないのではないかと思うのです。

データの組み合わせによる価値の創出

青井:よく「データ、データ」といわれることに対して、私は少し引っかかるところがあります。データがたくさんあり、ビッグデータをAIで回せば解決できる部分もありますが、それだけではデータによって金融から排除される人ができてしまう。本当のインクルージョンは、データを一緒につくっていく、「データ=信用」を一緒につくっていくプロセスであり、一方的に収集した情報で信用を判断するのとは違うと思うのです。

増島:データの観点は非常に面白いですね。データには人が勝手につくりあげているステレオタイプを外すという面があります。例えば、人は「主婦」であるとか「若いサラリーマン」であるといったカテゴリーで判断されてしまいがちですが、本来は個人個人で違うわけです。モノのデータだけでは「服を買いました」という情報のみですが、服を買うお金をどこから調達したのか、この時期にお金が不足していたのかなど、金融データと非金融データがあわさると、「この人に今何をすすめるべきか」が見えてきて、データとしての価値が大きくなるのです。

若者が抱く将来への不安を希望へ

青井:成人を迎えた人たちに「今年の抱負は何ですか」と質問するインタビューを見て、衝撃を受けたことがあります。回答の1番目が「節約」、2番目が「貯金」だったのです。7割の若者はお金に対する不安を持ちつつも具体的にどうしたらいいのかがわからず、とりあえず節約と貯金をするのです。それだけでは備えも安心も築けません。そこで私たちが次に考えていることは、若者が将来の見通しを立てられるような資産形成サービスの提供です。若いので原資はないかもしれませんが、少しずつ積み立てていけば、マーケットのアップダウンはあっても資産は増やしていける。そういうところに力を入れていきたいと思っているのです。

増島:グーグル検索の分析でわかったのですが、人は20代から70代くらいまでずっとお金の悩みを抱えて生きています。未来の不確実性に対する不安が、お金の不安という形で出てくるのではないでしょうか。そのような中では、個人にリアルタイムで並走してくれるサービスが求められると思うのです。「今のあなたはこういう状態なので、こういうパターンになり、将来はこうなります」となれば、お金の不安が将来の希望につながってきます。そのようなサービスの1つが、先ほどいわれた資産形成だと思います。資産形成の何が良いのかというと、自分の将来の見通しがある程度良くなってくることで、今をベストに過ごせるようになるという点です。車好きな人が、車を買ったとしても生活が破綻しないよう、サポートするための手段を一緒に考えて、購入後の生活をアドバイスしてもらえる。そんなサービスがつくれると思うのです。

データと人間の共創

青井:先生がいわれた生活のアドバイスは、ファイナンシャル・アドバイザリー・サービスですね。私どもは若い人にも投資とか資産運用のサービスを提供したいと考えているのですが、それをどうやって若い人たちに行き届かせるかが課題であると思います。投資というとちょっとハードルが高いので、まずはお金の知識というか興味を引くようなことがあると入っていきやすいのではないかと考えています。

増島:機械は、一度開発してしまえば、相手が1人であろうが100万人であろうがコストは違わないのです。しかも1人より100万人に提供する方がより正確で、価値が高まるのがデータのポイントです。ただ、それを全部機械でやるのではなく、機械と人を組み合わせる。何か大きな判断をしたいと思った時には、データだけでは踏み切れないことがあります。誰かに相談して、データを共有し、相手に最後の一押しをしてもらう重みというものがあると思うのです。

青井:ファイナンシャルプランナーの前野彩さんとお話をした時、印象的だったことがあります。前野さんがクライアントにまず聞くことは「あなたが本当にやりたいことは何ですか」という質問だそうです。例えばペットのことが大切であれば、ペットのために費やすお金は減らさないようにして、それ以外のところで節約していきましょう、というアドバイスをされるのです。お金について安心できることが、その人が本当にやりたいこと、生きたい人生の実現を助けるというアプローチです。

増島:エンゲージメントがそういう世界だと思います。丸井さんのクレジットの仕組みも基本は同じで、自分が将来なりたい自分に向かっているのだということを実感できるようなサービスをつくったら、そのサービスから離れることはできないと思うのです。

青井:まだ開拓の余地が非常にあるというか、データの活用の仕方にもいろいろありそうですが、データの活用と人間の関わりとの組み合わせ方も、まだまだ開発の余地がありそうですね。

「仮想通貨」が拓く新たな価値のモノサシ

増島:企業の価値のモノサシに株価がありますが、一方で、そうではないという話が出てきています。それを実現しようとしているのが仮想通貨です。企業はソーシャルキャピタルといわれる価値を生み出しているのですが、その部分が正しく株価に反映されている保証がないわけです。正しく反映する金融商品が存在すれば、それで測りましょうという話になるかもしれない。

青井:現在の株式市場ではESG投資が話題になっていますが、それは確実に外部からの影響が強くなってきているからです。もう少し幅広いステークホルダーにとっての利益をきちんと見ていかないと、少なくとも中長期的には、持続不可能になっていく。今の延長線上ではあるのでしょうが、やはりそちらのほうに向かっていかないといけないという気持ちが、だんだん高まってきていることの表れですね。

増島:仮想通貨自体は配当もないので、持っていても儲からないわけです。でも、皆がそれを持ち、使いたいという話になると値段が高くなっていく。例えば「丸井コイン」を出して、コインを持つ人が増えればコインの価値が上がり、持っている人たちの資産が増えていきます。そうなれば「お客さん=株主」よりも、もっとつながっていると思うのです。コインという金融によってつながっている。それが仮想通貨の持っているビジョンなのです。

青井:すごいビジョンですね。資本主義を乗り越えて、超克していくようなサステナブルなシステムを実現するための仮想通貨を考えていらっしゃるというのは、今日初めてうかがったのですが、仮想通貨に携わっている人たち全員が必ずしもそういうビジョンを持っているわけではないですよね。

増島:お金儲けの手段として見ている人も多いですが、仮想通貨の持っているビジョンが実現した世界になると、NPOだろうが個人だろうが企業だろうが、社会にどれだけの価値を加えたかということで評価され、持続するという状況がつくれるかもしれない。それが究極のインクルージョンかもしれないですね。

増島 雅和
丸井グループ アドバイザリーボード
森・濱田松本法律事務所 パートナー

東京大学法学部、コロンビア大学ロースクール卒業。Wilson Sonsini Goodrich & Rosati パロアルトオフィス、金融庁監督局、経済産業省「ブロックチェーン検討会」委員、内閣官房「シェアリングエコノミー検討会議」委員等を歴任。

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