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Dialogue 01構造的に儲かり、構造的に成長できる企業という視点

  • 奥野 一成氏
    農林中金バリューインベストメンツ株式会社
    常務取締役(CIO)
  • 青井 浩
    株式会社丸井グループ
    代表取締役社長 代表執行役員

企業家も投資家も企業価値を上げたいという点では同じです。
価値創造を担う「同じ舟」に乗っていながら、その性質は両者で異なります。
しかしこの共通点と相違点こそが、緊張感のある対話を成り立たせ、
互いに鍛え合うことで、長期的な社会の利益をつくっていくのです。

長期投資家にとっての企業との対話

青井:企業家と長期投資家は、「同じ舟」に乗っていても、同じ側に乗ってはダメだという、奥野さんの長期キャピタルアロケーションの考え方は面白いですね。「同じ舟」でも違う側に乗っているからこそ対話が成り立つし、企業価値の向上につながる。長期投資に対するリターンによって、互いの利益になっていくというイメージですね。

奥野:もちろん「同じ舟」の同じ側に乗って企業価値を上げていく長期投資家もいます。これはどちらが良い悪いではなく、両者それぞれが違ったスペックで企業家を見極めているということです。

青井:「同じ舟」の同じ側に乗っている長期投資家は、それぞれの投資スタイルは異なりますが、共通するのは「共に創る」という視点です。私は企業価値というと、当社の哲学に「共に創る=共創」があるので、投資家との関係もそういった寄り添うような形、「同じ舟」の同じ側で共創関係を築けると良いと思っていました。しかし奥野さんの投資スタイルはある意味で、真逆なのですね。

奥野:10年間、国内外の企業へ長期投資をおこなっていますが、良い会社は同じ匂いがするのです。ビジネスの本質というか、ネイチャーですね。それを我々は「構造」と呼んでいます。我々金融屋のスペックは、広くいろいろな産業を知り、その中で最も正しい「構造」を持つ会社を選んでいくことです。経営者はいずれ代わります。ウォーレン・バフェットがいつもいっていることですが、経営者よりもむしろ、経営者がいなくても回る会社に投資しなさいと。

企業家も長期投資家も、事業の経済性(付加価値・競争優位性・長期潮流)を見極め、「どの事業に資源を配分するか」というキャピタルアロケーションの選択では同じです。例えば日本電産が三協精機製作所を買収したケースのように、「動くもの、回るもの」という強みを外すことなく周辺事業へ資源配分し、産業構造そのものを変えることができます。これに対し我々は、産業構造そのものにポジティブに働きかけることはしませんが、儲けるロジックがきちんとあれば、業種や国境に限定されることなく、さまざまな企業に資源配分をおこないます。企業家も投資家も企業価値を上げたいという点では同じです。その熱意の中で、共通点と相違点が存在するからこそ、対話が成り立つのだと考えています。

「金融がわかる小売屋、小売がわかる金融屋」というビジネスモデル

青井:北米へIR 訪問した際、ある機関投資家から「バッド・インダストリー、グッド・マネジメント」といういい方をされました。我々のビジネスモデル転換に賛同はするものの、小売・百貨店でかつクレジットカードの業界、そして比較的割安な株価に対して、「それはバッド・インダストリーにいるからではないか」と。ところが、丸井グループのクレジットカードの取扱高が発行からの10年間で年平均17%の成長を続け、しかも貸倒率が業界最低水準の1.45%にあると説明しても、この独自のポジションが理解できないというのです。

奥野:私は小売も金融も本来的にはバッド・インダストリーではないと思っています。経営者の皆さんが異口同音におっしゃるのは、付加価値を提供する時に一番大切なのは、顧客との接点を持っているということです。

これまで私は、丸井さんを「小売」として見ていましたが、現在は「小売を持った金融屋」という仮説があります。顧客ニーズを聞き取る店舗網があり、そこに小売がわかる金融屋がいる。あるいは、金融がわかる小売屋がいる。しかも、小売や金融の従業員がグループ間を異動するという「職種変更」というシステムをつくっている。丸井さんのように小売でありながら、金融で顧客との接点をきちんと持っている企業はまずないわけです。一方、金融と小売を一体で運営するというビジネスは非常にすばらしいのですが、それを具体的な数字やビジネスモデルとして落とし込んでいく作業が必要だと思います。

青井:我々はずっと暗黙知でやってきているので、ビジネスモデルを明らかにしてほしいと、よくいわれています。運営する小売店舗は、まさにバッド・インダストリーから構造転換し、ビジネスモデルがガラっと変わりました。しかし店舗を訪れていただいても、見た目は以前の百貨店と大きくは変わりません。クレジットカードが伸びて儲かっていれば良いわけですが、環境が変化してきた時、暗黙知からはすすむべき答えは出てこないと思います。せっかくの強みが損なわれないよう、我々自身が形式知化して、次世代やそのまた次の世代へ正確に伝承していく必要があります。構造的に儲かるということと、構造的に経営者に頼らなくても成長していくことは同じですよね。

奥野:それがビジネスモデルの面白いところです。ビジネスモデルは「型」なのです。それを我々が論理的に納得できるかどうかは、数字に落ちるロジックができているかです。ここを煮詰めることが重要だと思います。

「小売と金融」掛け合わせによるブレークスルー

奥野:もう1つは、ビジネスモデルにおける何らかのブレークスルーを持つことです。丸井さんを「売場を持っている金融屋」と考えた場合、例えば余っているキャパシティを提供するなど、いろいろな発想が出てきます。商業施設など固定費産業で成り立つビジネスは、シェアリングエコノミーそのものですね。

青井:運営する小売店舗は、不動産型ビジネスに変わっています。自主売場は、どちらかというとECを軸足にしており、ショールームのようになってきています。不動産型ビジネスになるということは、百貨店と違ってモノを売らなくてもいいのです。場所が貸せればいいわけです。例えばシェアリングオフィスや、コワーキングスペース、何かの教室、そういった場所のシェアリングエコノミーは新規事業としてやろうとしています。

奥野:ビジネスモデルが変われば打ち手が増えますが、参入する競合他社もたくさんいます。やはり強みをそこに組み込んでいかないと。おそらく丸井さんの強みはカード会員。そしてカードにはICチップが入っています。これをさまざまなビジネスにつながるテクノロジーとして捉えることが可能です。

青井:誰でもできる機能だけでは一気に競争に巻き込まれてしまい、成長も利益率向上も実現しません。クレジットカードと掛け合わせることで、会員制ビジネスにしていきたいと思っているのです。そうすると今度は会費など、サブスクリプションという可能性が出てきます。サブスクリプションになると、またカードに戻ってきて、月額はカードで決済することになります。ずっと使っていただければ、カードの生涯価値が上がり利益率がどんどん高まってくるのです。独自のものをいくつ掛け算できるかだと思います。

インターネットによる「N対N」の世界

奥野:ビジネスモデルを抽象化していくと、変わるものと変わらないものが必ず出てきます。それを見極めていくためには、過去や成功体験に縛られず、ゼロベースで考えることが大切です。変わるものでいうと、1つ目にインターネットがあります。インターネットでつながる時代はこれまでまったくなかったわけで、個人主義や個々人の「ニーズの発散」が世界中で起こっています。企業にとっては昔のように、少品種を大量生産すれば良い世界ではなくなったのです。

青井:とても共感できます。当社では、長期の環境分析をグループ従業員と共有するため、これまでの20世紀とこれからの21世紀の大きな違いは何かという会議を開催しました。「これまでとの違いはインターネット、つまりコミュニケーションが変わるということだ」と。これまでは1対1、1対Nだったコミュニケーションが、インターネットによりN対Nに変わっていく。N対Nの世界から、例えばメルカリなど、B to CではなくC to Cのビジネスが出てくるのです。

奥野:丸井さんの強みはやはり「顧客との接点」です。例えば、現在プロ向けに発行している普通社債を、顧客向けに発行するとします。そうなると、バランスシートの左側も右側も、顧客と直接つながるわけです。会社が潰れる時は借入金が返せなくなった時、だから借入金の調達を多様化するほうが私は大切だと思うのです。それができるのがN対Nの世界です。

人口動態の変化を「斜め」から見るインクルージョン視点

奥野:変わるものの2つ目は、人口動態による成長性の鈍化です。約1億2,675万人の日本の人口が今後減少していくことは自明ですが、本当にそうなのか。人口動態だけを捉えると日本の小売はダメだとなりますが、例えば都市部をとってみたらどうなるのか。きちんと人口が増えているところはあります。我々のように常に斜めから見る視点で投資をしていると、捉え方が違ってくるのです。丸井さんが面白いのは、小売店舗が都市部に集中していることです。

青井:我々は少子高齢化や人口減少を「インクルージョン」という視点で捉えています。年代や性別に関係なく、障がいのある方、外国人やLGBTの方などに向けたビジネスで、フロントランナーをめざしています。クレジットカードでは、既存の金融サービスが行き届かない若年層や中・低所得者層に特化してきたので、ある種の「型」を持っています。斜めの視点から見ると、マクロ人口が減少しても、お客さまが増えれば良いのです。これまで培ってきたナレッジ・ノウハウなど、差別化の源泉をどう結びつけていくかだと考えています。

奥野:企業家の価値創造が0から1を創出することに対して、我々のような長期投資家の価値創造は、企業がつくった1を効率良く100にしていくものだと考えています。しかし我々金融屋は、0を-1にしてしまう企業にエクイティをつけたりすると、効率良く–100にしてしまいます。2008年のリーマンショックの時のように、まさに世界を潰してしまうリスクがあるのです。だから私は、この経営者は1をつくれる人なのか、–1にしてしまう人なのかを常に見極めながら、対話をしているのです。それが我々の考える「世界を良くする」ということなのです。丸井さんにも、常に1をつくることにこだわっていただきたいですね。

青井:似たようないい方をすれば、間違った投資家と対話をしてしまうと、企業が変な方向に行く可能性もあるということですね。今回は同じプロとして良い意味で対峙し、緊張感を持って対話ができたことは新鮮でした。奥野さんがいわれるように、「両輪」として互いに鍛え合うことで、長期的な社会の利益をつくっていきたいと考えています。

奥野 一成
農林中金バリューインベストメンツ株式会社
常務取締役(CIO)

1992年に日本長期信用銀行入社。長銀証券、UBS証券を経て、2003年に農林中央金庫へ転籍。オルタナティブ投資に従事した後、2007年より「長期厳選投資自己運用ファンド」を開始。2009年、農中信託銀行にプロジェクトを移し、年金基金等外部投資家向けファンドの運用助言業務に従事。2014年、投資助言業務に特化した農林中金バリューインベストメンツに移籍し、現在に至る。京都大学法学部卒業、ロンドンビジネススクールファイナンス学修士課程修了。

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